バッテリーをいたわる(100%満充電しない)方法
まずはこちらの良い記事を読みましょう。 www.itmedia.co.jp
満充電しない
記事中のP.3で触れられている、満充電*1を避けてバッテリーの劣化を遅らせることについて、各種デバイスの利用者として昔から考えていたことを適当にまとめてみます。
効果
最大80%程度の充電状態(SOC: State of Charge)で運用すると、満充電の運用と比べてリチウムイオン電池の寿命が1.5-2倍(条件によっては4倍?)ぐらいになるとされています。
80%充電で寿命は1.5倍:8割充電で寿命は1.5倍 正しいバッテリーの使い方|NIKKEI STYLE
Degradation of Commercial Lithium-Ion Cells Beyond 80% Capacity. (Conference) | OSTI.GOV
https://accubattery.zendesk.com/hc/en-us/articles/210224685-Getting-started-guide
Chargie - limit phone's nighttime charging to extend battery lifespan
BU-808: How to Prolong Lithium-based Batteries - Battery University
ほとんどの場合に最大80%程度の残量で十分な運用のデバイスや、ACに接続したまま運用するデバイスでは、簡単に運用が可能で、なおかつ必要時には満充電にできるのであれば、満充電を避けることのメリットは大きく、デメリットは少ないと言えるでしょう。
また、満充電状態の時間が長いことも寿命に悪影響があるとされているため、最終的に満充電にするとしても、その時間を短くする(電源が外されるタイミングを学習し、その直前を狙って満充電にする)、発熱による劣化を避けるために温度によって急速充電を避けるという制御を自動で行うデバイスもみられます。
満充電を避けるほどの劣化を遅らせる効果は見込めないかもしれませんが、学習がうまくいけばバッテリー持続時間への影響を最小限に、バッテリーの劣化を遅らせることができるという意図でしょう。
各種デバイスの対応
本体価格・バッテリー交換のコストが高めの各種デバイスについて主に検討します。
WindowsノートPC(とくにビジネス向け)
ThinkPadやLet's noteなどのビジネス向けノートPCでは、昔からアプリかBIOS画面で充電制御の設定ができるようになっており、AC電源接続時の最大充電状態%等が設定できます。
設定した充電上限に達すると、それ以上バッテリーに充電を行わず、AC電源からはPCに給電のみがされるようになります。
その他にも充電開始%を指定して、AC接続時にはそれ未満の場合のみ充電、それ以上の場合は給電のような設定ができるものもあります。
最近は家庭用ノートPCでも導入されてきているようです。適当に調べると、FMV, dynabookは対応しており、Razer Bladeは対応していないようです。
エコノミーモード(ECO)切り替えユーティリティ | PC Cafe サービス・サポート編 | パナソニック パソコンサポート
ノートPCについては、AC接続しながら長時間利用することが多いので、制御が全くできず常時満充電となるか、少なくとも満充電未満で給電状態にできるかの差は大きいと考えています。
MacBook (最近まで)
MacBookでは最近までバッテリー関係の制御をソフトウェア的にする方法がなく、常に100%まで満充電されていました。
ハックとしては、MagSafe*2時代のMacBookでは、MagSafeの中央のピンが接続されていない場合はバッテリーに充電されずに給電のみがされるという仕様であるため、給電だけをしたい場合のみ何らかの方法で中央のピンを塞ぐことで、手動で給電と充電を切り替えることができました。
具体的な方法としては、ピンをテープで塞ぐ方法が有名だったようです。単に塞いでしまうと切り替えができないのでどうするかというと、紙でテープをMagSafeのプラグに着脱できるようにした物を作った人が居ました。
簡単に脱着できるMacBook Proの給電用MagSafeキャップの作り方 | くねおの電脳リサーチ
このほかにもMagSafe2のMacであれば、MagSafe1のACアダプタ+MagSafe2への変換アダプタの組み合わせを用いることができるので、無加工の充電用の変換アダプタと、加工した給電用の変換アダプタを使い分けることが考えられます。*3
MacBook (最近)
新しめの(TB3対応Intel or Apple Silicon)のMacBookであれば、2020年にリリースされたmacOS Catalina 10.15.5以降では「バッテリー状態管理」、macOS Big Sur 10.11以降では「バッテリー充電の最適化」と呼ばれる機能が利用できるようになりました。
この機能を有効にすると、利用状況を分析して自動で充電レベル・満充電のタイミング等を制御するようです。
ほとんどの場合に常時ACに接続しているような運用の場合は、学習が進むとACを接続していても80%で充電が止まり給電状態になるようです。ますますApple Silicon MacBookが欲しくなりましたね。
Mac ノートブックのバッテリーの状態管理について - Apple サポート
Mac でバッテリーの充電が一時停止または保留されている場合 - Apple サポート
Androidスマホ
メーカー独自実装
Androidスマホは無限にあるので、何もない機種や何かがある機種がありますね。
記事中にあるXperiaの「いたわり充電」は、自動学習のほかにも、充電時間帯、最大充電%の設定ができるようで、かなり設定が柔軟にできる部類に見えます。
自分が利用しているAQUOS zero2では「インテリジェントチャージ」というオフにできない機能があり、よくわかりませんが多少はうまく制御してくれるようです。満充電にしないような制御はなさそうです。
適当に調べると、Galaxy、OPPOにはそのような機能はなさそうでした。機能として記載していなくても、多少の制御はしているかもしれませんが。
学習による自動制御が必ずしも最適とは限らず、例えばとにかく急速で充電したいような場合があっても急速で充電されない事もありえるので、難しいですね。
いたわり充電 | 基本操作 | Xperia(エクスペリア)公式サイト
電池の減りが早くなったら使いたい、バッテリー長持ち機能|AQUOS:シャープ
サードパーティアプリ
AccuBatteryというアプリは、まさにバッテリーの寿命を気にする人向けのアプリです。
充電の上限としたい%を設定すると、充電中にそこに達したときにバイブ等で通知してくれます。ただのアプリなので自動で充電停止まではできません。
その他バッテリーの劣化度合いを推測して記録するなどの機能も豊富です。
自分は現在はこのアプリを活用しています。最近のスマホは急速充電で充電が早く、またバッテリー容量が大きくスリープ中の消費%が少ないため、夜寝る前までに75%ぐらいまで充電しておいて、寝ている間の充電はやめて、翌日の外出前にはスマホをまた充電するような運用にしています。
サードパーティアプリ for rooted
Advanced Charging Controller というrootedデバイス用アプリでは、充電レベルによって実際に充電を止めるなど、メーカー独自実装のような制御が可能なようです。ハードウェアに近い分野なので、機種によってはまともに動くとは限らないしちょっと怖いですね。
Decent dress: Advanced Charging Controller (ACC) を使う(Androidアプリ)
GitHub - Magisk-Modules-Repo/acc: Advanced Charging Controller
特殊な充電器+アプリ
ChargieというUSB充電器+アプリを組み合わせた製品があります。
アプリで設定した充電状態%に達すると、アプリが充電器と通信して給電を停止するという仕組みで、あらゆるiOS/Androidデバイスでの充電状態の制御を実現しています。
また、指定したタイミングに合わせて満充電にするような制御も可能となっています。
要求に応えてくれるマニアックな製品で、見つけた瞬間に買おうと思ったのですが、USB Type-CではなくType-Aなのと、1個だけ買うと送料が割高に感じたので結局まだ買ってません。
その他
スマホをノートPCと比較した場合の特徴を挙げます。
- 普通はACに常時接続することはなくバッテリー駆動で運用する(満充電のままで維持はされない)
- 買い替えサイクルが早め
- Androidスマホは数年でアップデートが止まる
- バッテリー交換費用も機種によるがそこまで高くない*4
- ケータイ保障サービス等で本体ごと交換できる
- バッテリー容量の多い(劣化しても十分多い)機種を選ぶことができる(Androidであれば特に)
- 劣化してもモバイルバッテリーによるカバーが容易に可能
よってノートPCと比べると、充電制御などを気にせず普通に使うという選択肢も普通にありだとは思います。充電制御が優れた機種を買うというのも微妙ですからね。ただしiPhoneの件で話題になったように、バッテリー容量が多かったとしても、劣化すると最大クロックが落ちるか電源が勝手に落ちるようになる可能性もあるので、多ければ劣化してもいいという話でもなさそうです。
自分はAQUOS zero2という、極端に軽量な代わりにバッテリー容量やカメラや放熱を犠牲にした機種を気に入って使っているので、充電制御の事をわりと気にしています。絶対にZERO3を出してほしい。
iPhone
iOS機能
iOS13から「最適化充電」機能が導入され、利用パターンを学習して80%以上の充電を遅らせることができるようになりました。*5
iPhone の「最適化されたバッテリー充電」について - Apple サポート
また、POS端末のように常時給電で運用を続けた場合は、表示上は満充電として100%となるものの、実は内部的な充電状態は100%未満になるように制御されているようです。
iPad や iPhone の充電管理機能について - Apple サポート
特殊な充電器+アプリ
上記のChargieがiPhoneにも対応しています。
iPad
iPadOSにはiOSの「最適化充電」機能はないようですが、常時給電の制御はあるようです。さすがにPOS等に大量に導入されているだけのことはありますね。しかしiOS 11.3 (2018)で対応というのは遅くない?
最近はiPad ProがノートPCを置き換えるような宣伝をしている事を考えると、MacBookの「バッテリー充電の最適化」に相当する機能が欲しいとは思います。
ワイヤレスイヤホン・ヘッドホン
Apple AirPods Proについては、利用パターンを学習して80%以上の充電を遅らせる制御が導入されているようです。
他のイヤホン・ヘッドホンについてはあまりそのような話を見かけません。
人間の生活パターンを学習するとなると、イヤホンだとしても時計(曜日・時刻)が欲しいでしょうから、独自通信でiPhoneと連携できるApple AirPodsは実装しやすそうですね。位置情報と連携して、家を出ている時にだけケースからイヤホンに満充電みたいな制御もやれそうですね。
AirPods の充電方法とバッテリーの駆動時間について - Apple サポート
自分が使っているヘッドホンのBeoplay H9iは、珍しくユーザーのバッテリー交換に公式に対応しており、昔のガラケーみたいなバッテリーが入っています。ヘッドホンはバッテリー持続時間が長いため、劣化して使えなくなる前に買い替えそうなので、その点で選んだわけではないのですが。
イヤホンについては、バッテリー寿命が製品寿命に直結する事が多いので、なんとか各社対応してもらいたい所です。TWSイヤホンはとくにバッテリー容量が少なく、劣化による影響が大きいのでなおさらです。充電ケースに80%充電モードに切り替えるスイッチを付けるとか?
AirPodsのバッテリー劣化が激しいという事例はよく出てきます。
【AirPods寿命問題】バッテリー劣化が早いのでAppleCare加入は必須です | はたのブログ
AirPods のバッテリーは2年で劣化し寿命になるかもしれない
電気自動車(BEV)
Disclaimer: EV持ってません
運用
電気自動車については高価な製品であり、バッテリー寿命が製品寿命に直結し、上記のようなガジェットとは桁が違う耐用年数が求められるため、どのメーカーも標準で車側での最大充電状態の制限(表示上満充電であっても、実際のバッテリーは満充電にしない)や高度な充電制御を入れているはずです。
とはいえ充電状態をさらに制限したほうが少しは劣化が抑えられるするでしょうし、高価な製品の寿命やリセールバリューにも直結するので、不便がないのであれば、充電状態は利用者がさらに制限できたほうがよいと考えます。
超小型モビリティ等ではない一般的なBEVについては、遠出に対応するため、急速充電に対応するため、加速時の最大出力を稼ぐため 等の理由から大量のバッテリーが積まれているものの、自家用車としての利用パターンを考えると、それによってもたらされる数百kmの航続距離が毎日必要な人は少なく、多くは平日は通勤のために数km~数十kmの利用か、または平日は利用されない事になるでしょう。休日の遠出も毎週あるわけではないでしょう。
そのような利用パターンの場合、車としての利用だけを考えれば日常的には50%程度の充電状態でも十分で、必要時だけ満充電にする運用でもほぼ不便はないと考えられます。*6
自宅にV2H設備があるのであれば、災害備蓄のために満充電にする、太陽光発電の余剰分を蓄電して後で利用する、等の活用も考えられるので、そのように蓄電池としてもEVを活用する場合は、少し長持ちさせるメリットをデメリットが上回りそうですが、サイクルも増えそうなので最大80%ぐらいには設定したい気はします。
各車
初代リーフには充電状態を最大80%に制限する設定が存在したようですが、現行リーフでは満充電による影響が少なくなったため無くなったとのことです。
Teslaでは細かく設定できて便利そうです。
MX-30も説明書によると10%-100%で設定できるようです。
「80%充電の意義 その2」kana2312のブログ | かなそにっくの自動車工房 - みんカラ
*1:電気自動車のように、デバイス上の100%=リチウムイオン電池の設計上の100%とは限らない(デバイスの設計側でも余裕をもたせている)という場合もありますが、ここではとりあえずデバイスから利用者が見ることができる一般的な充電状態%の話をします
*3:自分が以前使用していたMagSafe2のMacBookについて、このような対処をしようかなと考えていましたが、電源関係の端子を加工する危険性(ずれた時など)や追加で購入するコストなどを考えて、面倒なのでそのままAC接続の満充電で使っていたところ、無事バッテリーが劣化して交換修理が必要な状態になりました
*4:スマホのバッテリー交換は実店舗にアクセスできれば手軽ですが、アクセスできない場合は代替機を調達しデータを移行し帰ってきた本体に再度データを移行するという手間がかかるので、正規部品による交換ができる(非公式を含む)ショップが全国各所に増えることが望ましいと思います
*5:例の訴訟のおかげかもしれない
*6:とはいえ電池切れのリスクがある場合(積雪が予想される時期等)は満充電のほうが良いでしょう